2番手の俺がキミのヒーローになる物語
次の日も奈緒は元気に訪れた。
「やっほー。起きてる?」
「あぁ」
「あれ?今日いつもより顔色良いんじゃない?」
「まぁな」
「良かった〜。あ、昨日テレビ見てたらね...」
奈緒がいつものように他愛のない話をする。俺は頷きながらその話を聞く。
「...って言ったのがスゴく面白くてさ〜...聞いてる?」
「あぁ、聞いてるよ」
「...なんかあった?」
俺は真っ直ぐ奈緒を見て言う。
「奈緒さ、もう病院来るのやめていいよ」
「...え?あ、もしかしてうるさかった?」
「ううん。奈緒が来てくれたら楽しいよ」
「それなら...」
「でも俺に会うと奈緒、悲しくなるから」
奈緒は驚いた顔をした後、泣きそうな顔になる。
「そんなこと...ないよ」
「俺がこうなったのは奈緒のせいじゃない。でも奈緒はそう思ってない」
「...当たり前でしょ。私を助けて、蓮都は怪我してるんだから」
「そう思ってる限り、奈緒はずっと苦しむことになる。だから俺の傍にいない方がいい」
「でも...私は...」
「俺は奈緒が笑ってる顔が好きだから。だからいつでも笑ってて欲しい」
「蓮都と話してる時笑ってるよ」
「違うよ。俺の為に無理に笑ってる顔じゃなくて、心の底から笑ってて欲しい」
必至に涙を堪える奈緒。やっぱり俺は奈緒を泣かせてしまう存在だ。
「奈緒」
奈緒の頬に優しく触れる。
「奈緒と幼馴染として過ごした時間は幸せだった。この怪我が治って、奈緒が俺を見て心から笑えるようになったら、また一緒に遊ぼう」
堪えられなくなった涙が奈緒の目から溢れる。その涙は頬に触れている俺の手にも伝った。
「違う...私は...蓮都の傍に...」
「今の俺は奈緒を苦しませる存在だから。ほんの少し離れるだけ。でもいつか奈緒が俺を必要とした時は絶対に助けにいくから」
涙を流しながら俺の手に触れる奈緒。
「...ごめん...ごめんね...」
謝る奈緒の姿がとても淋しく感じられた。そんな彼女を抱きしめたいと思ったが、そうするのは俺の役割ではない。
今奈緒の傍に必要なのは俺以外の奈緒を大切に思う人だった。
「...真白先輩のこと好き?」
「...うん」
「だったら告白したらいいよ。きっと上手くいく」
「...そうかな?」
「うん。幼馴染の言葉を信じろ」
「...うん、信じようかな」
前の俺だったら決して恋に関して背中を押そうとは思わなかった。しかし今背中を押したことに後悔はなかった。
奈緒は立ち上がり、荷物を持つ。
ずっと大好きな子が、ずっと傍にいると思った子が離れていく。
伸ばしたくなる手を抑えた時、奈緒は一度大きく深呼吸をした。そして優しい表情をして言う。
「蓮都は私の救世主(ヒーロー)だよ。ありがとう」
そう言い残し、奈緒は病室から出ていった。
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