シニアトポスト
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「君はまだ彼女に伝えたいことがあるだろう?彼女の、…君たちの未来はきっとまだ道の始まりに過ぎなかった」
「…そう、ですね」
「翼くん。君が前を向いて“生きる”ためには、このポストはきっと大事な役目を果たしてくれると思う。けれど同時に代償もあるだろう。…君は、どうしたい?」
マスターが持つカップからは、もう湯気の姿は見えなかった。
――どうしたい?
マスターの問いかけに、僕はぎゅっと下唇を噛んだ。
莉乃に謝りたいことがある。聞きたいことがある。伝えたいことが、まだまだたくさんある。だけど、シニアトポストを使うには、とある条件がある。
「どんな選択をしようがそれは君の自由だ。君が抱える後悔が、少しでも軽減される答えが出ればいいと私は思っているよ」
マスターの落ち着いた声は、いつだって僕を救ってくれた。
莉乃と付き合うことになった日、僕は真っ先にマスターに伝えに来た。
莉乃と喧嘩をした日、いつも僕はマスターに相談に来ていた。
彼女が大学に合格した日、僕はマスターにその喜びを伝えに来た。
僕と彼女は、似た者同士らしい。
もし、もし、今生きているのが僕ではなくて、死んだのが彼女ではなかったら。
───莉乃もきっと、僕と同じ答えを出すだろう。
「…手紙を書きます。莉乃に届けたい言葉があるから」
僕の言葉に、マスターはいつもの優しい笑みを浮かべると、「君たちに未来がありますように」そう言って、3年前に見たときよりもしわの増えた目尻から、一粒の涙をこぼした。