シニアトポスト
平尾 藍
「お前、最低だな」
チッ、とあたしに向けて聞こえるか聞こえないかくらいの舌打ちをした彼は、そのまま何かを諦めたかのようにあたしから目を逸らし、ドアを乱暴に開けてリビングから出て行った。
あたしはそんな彼に弁解をする意思もなければ、引き留めることもしない。
ただその場に立ち尽くしては消えていく彼の背中を見送り、玄関の方で聞こえる金属の音に耳を澄まして、後にやってくる静寂と虚無感を待った。
追うまでの人じゃない。弁解してまで一緒にいたいひとじゃない。
あくまで貴方は“彼”の代わりで、あたしの寂しさを埋めてくれる都合の良い道具でしかなかった。
最低なことを思っているのも、最低なことをしているのもわかっている。
分かった上でしているから、もうあたしは救いようのない女なのだと思う。
ーーお前、本当に俺のこと好きなの?
あたしの何かに不満を感じていた彼──いや、“元”彼にそう聞かれ、あたしは思うままの感情を言葉にした。そうしたら、あたしの隣から彼は消えた。
訪れた静寂にさよなら、と呟いて、あたしは遠い昔の記憶を思い出す。
──“彼”は、根っからのイイ人だった。