シニアトポスト
「ね、マスター」
店内には、あたし以外にお客さんはいなかった。カウンターに肘をつき、あたしのためだけに目の前で調理をしているマスターのことを呼びかけると、マスターは声だけで反応してくれた。
「あたし、また彼氏に振られちゃった」
「…そうか。今回は何が原因だい?」
「いつもとおんなじだよ。あたしさ、やっぱり春野くんの生まれ変わりと出会わない限り結婚できないかも」
はは…と自嘲すれば、マスターも困ったように笑う。
いつも食べているオムライスの香りがだんだんと近づいてくる。空っぽのお腹がぐぅ~と音を立てた。
大好きだった彼があたしの前から姿を消したのは、大学の卒業式の日のこと。
“消えた”なんて言い方をするともしかしたらどこが違う場所で息をしているのではないかと思わせてしまうかもしれないが、残念ながらそんな希望は1ミリもない。
春野くんは死んだ。
もう、この世界にはいない。