シニアトポスト
卒業式の日、彼は学校に来なかった──いや、“来れなかった”。
式に来る途中、突然道路に飛び出した子供が軽トラックに轢かれそうになったところを助け、自らの命を落とした。
あたしの中で“イイ人”で始まった彼は、“イイ人”のまま22年の生涯を終えることとなったのだ。
一緒に卒業して、お祝いに二人でどこか遠くに旅行に行こうって約束したのに。
「藍はわがままだから、きっと藍の全部を可愛いって受け止めてあげられるの、俺くらいでしょ?」そう言って抱きしめてくれる春野くんが大好きだったのに。
「俺ね、藍のことめちゃくちゃ好き」
「あたしの方が好きなんですけど?」
「えーそうかなあ。だって藍、俺が本当は藍のことずっとそばに置いておきたくて、本当は毎日キスしまくって、いじめて、泣かせて、…もっと俺でいっぱいにしたいって思ってるの、知らないでしょ?」
「…、変態じゃん」
「そうだよー。俺だって男なんだから」
彼の声で名前を呼ばれたのはもうずっと前のこと。
彼と進行形で恋をしていたのも、もう古い記憶だ。
彼がいた毎日を思い出すとぎゅうっと胸が苦しくなって、ここにはいない春野くんを想っては涙がこみ上げる。
もういない人を想うのは つらくて虚しいだけだった。
もう会えない。
もう、きみは私に温もりを分けてはくれない。