シニアトポスト
《今バイト終わったところなんだけどね》
「おつかれさま。家にいたけど、どうかした?」
《んー、なんか会いたくなっただけだよ。ね、今からそっちに会いに行ってもいい?》
「いいけど、もう暗いから迎えに行くよ。どこか明るいところで待ってて」
《えっ、いいよ!遠いもん、私が向かうよ》
「だめ、危ない」
《えー、じゃあ駅までは歩く。5分くらいだし、それならいい?》
「…えー」
《寒くないように中で待つし、人の多い道歩くから、ね?》
「…わかったよ。本当に気を付けて、俺も急いでいくから」
彼女とそんな会話をしたのは、彼女のバイトが終わった20時半を過ぎたころ。
いつもは、バイト先の女性の先輩が車で家まで送ってくれるというシステムに甘えていたのだが、その日は彼女が体調不良で休みだったらしい。
今から会えるのは嬉しいことだけれど、この夜道を大学生の女の子を一人で歩かせるわけにはいかない。5分でも本当は気が引けるけれど、そんな僕の心配を差し置いて、莉乃は頑なに僕に迷惑をかけてしまうことを嫌がった。
せめて駅までは向かうよ、と譲らない彼女に妥協して、しかたなく彼女のバイト先から一番近い駅で待ち合わせをすることになった。
僕は急いで上着を羽織り、携帯電話と財布をポケットに突っ込み、家と自転車の鍵をぶら下げたキーケースを片手に家を出た。