シニアトポスト
春野くんが死んでから、もう何年が経っただろう。
あたしは相変わらず社会人としてせわしない毎日を送っていた。残念ながら、まだ春野くんの生まれ変わりには出会えていない。
あの手紙は、無事彼のもとに届いただろうか。
人が行き交う交差点を過ぎ、駅への歩みを進める。
明日は休みだから、今日はオムライスでも作って食べようかなぁ。
時間があるときに練習を重ねるうちに、あれだけ苦手だった料理はできるようになった。あたし特製のオムライス、春野くんにもたべさせてあげたかった。
そういえば、昔よく訪れたお店のオムライスが大好きだったはずなんだけど、──…ええと、どんな味だったっけ。春野くんに手紙を出した“不思議なポスト”の存在もその店のマスターに聞いたような気もしなくないが、それもまた思い出せない。
仕事の疲れか、はたまた別の何かか。
と言えど、空っぽの胃は先ほどからぐぅぐぅと音を立てていて、一刻も早くオムライスを食べないと死んでしまうと訴えている。
喫茶店の場所もオムライスの味も、マスターの顔さえも思い出せないけれど、きっといつかのタイミングで思いだすことだろう。
春野くん。
あたしは今日も頑張って生きたよ。えらいって褒めてくれてるかな。
きみが生きていたら、「藍のつくるものなら何でもおいしいよ」って、きっとにこにこしながら食べてくれるんだろうね。
あたしの愛が詰まったオムライス。
香りだけでも、きみに届いていればいいなぁ。
そんなことを思いながら、あたしは駅の近くにあるスーパーへと急いだ。