シニアトポスト
会社を出て、店が集まる大通りの方に向かって歩きながら 記憶を巡らせる。
そういえば、この辺に喫茶店があるって昔だれかに───…
――加賀野も今度行ってみろよ。駅の裏の方にある喫茶店。オムライスが絶品なんだよ
そうだ、春野が言ってたんだっけ。
半熟の卵とチキンライス、それから特製のデミグラスソース。それがたまらないんだって、大学生の時、俺の自慢の友達――春野 千颯という男に熱弁された。
「藍に教えてもらったんだけど。ほんと美味いから、今度加賀野のことも連れてってあげる」
「へえ。楽しみにしてる」
楽しみしてたよ、俺は本当に。
店の名前も場所も、ちゃんと聞いておけばよかった。『駅の裏にある、オムライスが美味しい喫茶店』なんて情報としては不十分だ。
行ってみたかった。食べてみたかった。
だけど───おまえはもう、ここにはいない。
――なにしてんだよ、ほんと、
それが、俺が春野にかけた最期の言葉だった。