シニアトポスト
記憶が消える。
それが、シニアトポストを使う厄介な条件だという。
悲しいことに、私のその話を聞いてもマスターと同じように“厄介そうな顔”はできなかった。思ったままに言葉にすれば、マスターは「はは」と小さく笑みをこぼす。
「君は素直で良い子だね」
「ごめんなさい…」
「なにも謝ることはないさ」
素直で良い子だなんて、あまりにも私には似合わない気がする。
莉乃や翼くんの前では 思ったことの半分も伝えられずじまいだったし、学校では人見知りに加えて、陰口を言われたり、周りからどう思われているのかが怖くてあまり自分から発信できなかった。
マスターと私は良い意味で他人。
だから、思ったままに口にできたのだと思う。
本当に素直で良い子なのは、もうこの世にはいない双子の片割れ。
私は、つまらなくて現実主義の、濁った感性の落ちこぼれ。
そう思ったら、また少しだけ悲しくなってしまった。
「君の言う通りさ。この条件は、君たちにとってはそこまでの苦痛じゃない」
マスターが言う。マスターの無理やり作った笑顔がなんだか苦しかった。