シニアトポスト
瀬崎 和仁
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最愛の妻───可奈子(かなこ)が消えたのは、本当に突然のことだった。
「久しぶりねぇ、和仁(かずひと)さんと2人で出かけるのなんて。お店を休業するなんて初めてじゃないかしら」
「まあ、たまにはいいじゃないか。息抜きになるだろう?」
「ふふ、そうね」
その日、私と妻は車を使って旅行に出ていた。
旅行と言っても日帰りで、ちょっとした息抜きのつもりだった。夏が近くなっていて、雑誌やテレビを見るたびに妻が「海なんか行きたいわねぇ」と言うものだから連れてきたのだった。
「喫茶 TOMORROW」を臨時休業にするのは、創業してから初めてのことだった。
遠くに車を助手席に妻を乗せ、風を切って車を走らせ、海の見えるお店でご飯を食べた。
結婚して2人で喫茶店を始めて、それからずっと自分たちの作るご飯しか食べてこなかったからか、お店で食べるのはどこか新鮮で、それでいて懐かしかった。
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「牛乳と卵だけ買って帰りたいわ」
「じゃあスーパーを経由して帰ろうか」
「そうね」
帰路につきながら、明日以降に使う牛乳と卵の話をした。
───“明日”が途切れたのは、その直後の出来事だった。