シニアトポスト
私たちの運転する車は、追突事故の被害にあった。
あとから聞いた話、追突した車の運転手は60代の高齢者で、アクセルとブレーキを間違えたことによる事故だったらしい。
妻は打ちどころが悪く即死。
私は重症だったけれど、なんとか一命はとりとめた。
私はしばらくは病院のベットの上での生活が続き、喫茶店に扉にかけてきた臨時休業の看板は、その日から永遠に“営業中”にひっくり返ることはなかった。
妻と見た海も、食べたご飯も、全部最期の思い出になってしまった。
「またいつか来ましょうね」と笑う彼女はもういない。
エプロンをつけて、常連のお客さんに笑う彼女の姿ももう見れない。
さよならは、いつだって突然だ。
大好きだった。大切だった。
けれど、自分の命をかけてでも守りたかった人は、守る手段もないままに呆気なく死んでしまった。
病院生活が続き心身ともに弱っていった私は、喫茶店に戻ることのできないまま、彼女の後を追うようにこの世からいなくなった。
死んでまた彼女に会えるならいっそこのほうが幸せだと、死ぬ直前、もう働かない頭の片隅で思った。