シニアトポスト
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「…だけど、会えなかったんだ」
マスターはそう言って一口、珈琲を飲む。
関係のない私が、もう死んでいるというマスターの話に悲しくなるのは間違っているだろうか。同情ではない感情が私を襲うのも、気のせいだろうか。
「死後の世界には確かに快適だった。生きていた頃の世界と同じようなものさ」
「…イメージと違いました」
「はは。まあでもそれは生活をする分には、の話だがね。死後(あっち)の世界では、忘れられない記憶を抱えたまま、会いたい人に会えないまま生きて行かなくちゃならないんだ」
マスターの言葉に説得力があったのは、一度死後の世界を見ていたからなのかもしれない。生きている人間にはわからない感覚をマスターは知っている。
それが、良いことなのか悪いことなのか、私にはわかりそうになかった。
「とても後悔したよ」
「…、」
「死んだのは自分の意志ではなかったけれど、それでも私は、死んだら当たり前に妻に会えると信じていたから。まさか、記憶だけが残って彼女の行方が分からないなんて思いもしなかった」