シニアトポスト
マスターは、私よりずっと生に前向きだ。…いや。前向き、というよりは、自分の後悔とちゃんと向き合っているという方が正しいかもしれない。
「私みたいな人が増えてほしくはないからね」と、そう言って笑うマスターに、後悔から逃げて隠れて生きる私が、これ以上何を言えたというのだろう。
「シニアトポストは私が作ったものなんだよ」
「…シニアト、ポスト…」
「死後を訓読みさせただけのセンスのない名前なんだけどね」
はは、とマスターがまた笑った。消えちゃいそうなくらい、覇気のない笑顔だった。
「現実(こっち)で喫茶店を営む代わりに、死後(あっち)の偉い人から条件が出された」
「…それって」
「そう。手紙を出すときの条件があるのは、そのことと関係しているんだよ」
マスターは言っていた。
『この喫茶店に関わる全ての出来事と、大切だった思い出の記憶が消える』と。
『記憶が消えて辛いのは私の方なんだ』と。
───シニアトポストの規約はね、
マスターがどこからか紙を取り出した。「見てもいいんですか」と遠慮がちに聞けば、マスターは小さく頷いてくれた。