シニアトポスト
《注意事項》
1.手紙の内容を第三者に公言しないこと。手紙の内容が差出人の死後に対する願望だった場合、実現できる可能性が低くなる恐れがあります。
2.ポストに投函する場合は相手の生年月日、名前、性別を正確に記入してください。配達間違いを防ぐためのご協力をお願い致します。
3.手紙を投函した瞬間、差出人と宛先人の大切な思い出をひとつ、抹消致します。また、ポストに関わる関係者の記憶も消えますのでご了承ください。
マスターが取り出した紙にはそう記されてあった。指印が押されてあり、マスターのいう“偉い人”と結んだ契約なのだとなんとなく察した。
「私は今まで何人もの手紙を届けてきた。翼くんの手紙も、…もちろん莉央ちゃんが手紙を書いたらそれも届ける」
「…、っ」
「だけどその度に──私は2度目の死に近づいているんだ」
マスターはどれほどの期間、こうして後悔に苦しむ人たちを助けてきたのだろう。
自分の命を削ってでも知らないだれかに尽くせるマスターの苦しみと努力を、私はわかってあげられない。
私は、マスターの未来を、すくえない。
「…人が本当に死ぬ時は、“忘れられたとき”だ」
「…、」
「喫茶店に来た人は皆、手紙を出したころには私のことは覚えていないんだ。私に関わる記憶は徐々に曖昧になって、───そしていつか、綺麗さっぱり忘れてしまう」