シニアトポスト





マスターの話が本当なら、莉乃に手紙を出した翼くんはもうマスターのことは忘れているかもしれないのだ。3人でこの喫茶店に来たことも、この珈琲の味も、全部。



「忘れられるたびに私は老いていく。完全に忘れられたら私は消える。…そういう条件でこの喫茶店に戻ったから仕方のないことなんだけどね」




笑わないで。
マスター、これ以上、そんな悲しい顔で笑わないで。



大切な人を先に失って、自分も死んで、会えると信じていた奥さんには会えなくて。それで自分と同じような人を増やしたくないから、と条件を付けてシニアトポストを作った。


今までそうして何人もの未来を救ってきたのはマスターなのに、最終的に消えてしまうのは記憶どころかマスター自身だなんて───そんなの、マスターだけがずっと報われないじゃないか。




「すまないね。莉央ちゃんにこんな暗い話を聞かせてしまって」

「そんな、」

「確かに苦しいけれど、私はまたこの喫茶店ができて幸せだよ。この手でたくさんの未来を救えたことを誇りに思っているんだ。もともと老いぼれたじいさんだったからなぁ。いつその日が来ても怖くないさ」


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