シニアトポスト
私は本当に何もできないのだろうか。
マスターの話を聞いた後で、事情を知らないふりをして手紙を書くなんてことは私にはできない。
マスターを救いたいと思った。
マスターにとって大切なこの喫茶店で過ごす時間に永遠をあげたかった。
───誰か一人でも、現実(こっち)の世界でマスターを忘れなければ、マスターが死ぬことはないのに。
どうしたらいいのかな。
私がマスターを忘れないための方法ってあるのかな。
こういう時、莉乃がいたらなんていうだろう。
――そうだなぁ。私だったら───…
「…マスターに、てがみ…?」
此処にはいないはずの、大好きだった莉乃の声が、聞こえた気がした。
「…そっか、手紙を、」
「ああ、そうだったね。莉乃ちゃんに───」
「ちがう、マスターにだよ!マスターに私が手紙を書く!」
大きく声を上げカウンターに身を乗り出した私に、マスターは目を丸くしてこちらを見た。テーブルの上の珈琲が私の勢いにつられて波を立てる。
「マスターはもう死んでるんですよね?死後(あっち)のマスターに手紙を届けるのじゃダメなんですか!?」
「え?いや、莉央ちゃん、」
「それか私がマスターとの思い出を全部メモしておくとか!あっ、そのメモも消えちゃうのかな…どうしよう、そしたら、何か別の方法を…」