シニアトポスト
未来へ
ずいぶんと昔のことを久しぶりに口にしたな、と、カウンターに置かれた2つのカップを見て思った。
私もそろそろ寿命が近い。
それを感じたのはもう何年も前のことだった。
シニアトポストを作って初めての依頼主は、妻が生きていた頃に喫茶店によく来てくれた夫婦の孫だった。
私が死ぬ前までは小さな赤ん坊だった男の子。中学生になった彼が、私が営む二度目の喫茶店に訪れた。
幼馴染の女の子は病で亡くなり、後悔している様子だった。
私は、そこで初めてシニアトポストの話を生きた人間と共有した。
人を救うことは自分を救うことに繋がる。
良いことを積み重ねていれば、いつかまた妻と巡り合えるかもしれない。一度死を経験した私にとって、いつか来る二度目の死はたいして怖くはなかった。
けれどそう思えたのは最初のうちで、たくさんの後悔を救ううちに私は苦しさで押しつぶされそうになった。
救った人たちが私を忘れるたびに呼吸が苦しくなるのだ。
この痛みに耐えきれなくなった時、私は完全に消えてしまうらしい。
今度こそ完全なる死。妻に再会するどころか、死後(あっち)の世界にもう一度帰れるかすら怪しい。
それが、時々怖くなった。