シニアトポスト
「…マスターを忘れるくらいなら、…私は莉乃に手紙は書かない」
生きた人間の優しさに触れたのは久しぶりだった。
素直でいい子だ、彼女は。
だからこそ報われてほしかった。
彼女が書いた手紙は絶対に届けてあげたい。
彼女を襲う罪悪感を消してやりたかった。
死後(あっち)で暮らす私に手紙を書くだなんて、そんなの思いつきもしなかった。
私宛に手紙を書いても、本当に彼女が私を忘れないという保証はどこにもなかった。それでも試してみたいと思ったのは、彼女の優しさが純粋にうれしかったからだ。もしこれまで通り彼女が私のことを忘れてしまっても、悔いはないと思えたのだ。
もう十分、二度目の喫茶店を楽しめた。
たくさんの後悔も届けることができた。
私もそろそろ、マスターではなくただの老人に戻っても良い頃なのかもしれない。
死後(あっち)の世界に戻ったら。
───命が尽きるまで、妻を探す旅にでも出ようか。