最後の一夜が授けた奇跡
「深呼吸しろ」
久しぶりの社長室の扉の前で私は緊張のあまり、律樹の手をひいて扉を開けるのを待つように訴えた。

今日は仕事は休みの日。
でも理事長は私たちに会うためにとわざわざ会社に来てくれている。

今日が休みの日でよかったと心から思いながら久しぶりに秘書室を通り社長室の前に立った。

最後のこの場所での記憶があまりに悪すぎて、今でも心がちくりと痛む。

あの時は律樹と離れることしか考えていなかった。

この子と二人で生きていく覚悟を決めなくてはならない。
律樹と離れなければならないと思っていた。

あの頃の気持ちを思い出すだけで泣きそうになる。

離れることではなく一緒にいる夢に見た未来のためには、ここで乗り越えなければならないことがある。
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