最後の一夜が授けた奇跡
「今日は社まで来ていただきありがとうございます。」
律樹と理事長は親子なのにいつも敬語だ。
その関係性は親子よりも会社での上下関係の方が強く出ている。

律樹は社長室に入ってすぐに、ソファに座っている理事長に頭を下げた。

それでも私との手はつないだままだ。

私は律樹の少し後ろにさがり、頭を一緒に下げる。

律樹よりも深く。

その間も、気づかれないように深呼吸をした。

律樹は顔をあげるとソファの方に近づいた。

理事長が私の全身を確認するかのようにじっと上から下まで見る。
その顔はかなり険しい。

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