最後の一夜が授けた奇跡
動じたらだめだ。

理事長の目が私と律樹の繋がれた手で止まったのを見て私は律樹から手を離そうとする。

でも、すぐに律樹が私の手をギュッと繋いでつなぎとめた。

「泉崎季里さんです。」
改めて律樹が私のことを理事長に紹介する。
「泉崎季里と申します。今日は、お忙しい中」
私がすかさず挨拶しようとすると理事長の低い声に遮られた。

「律樹、座りなさい」
「はい」
理事長の言葉に律樹は理事長の斜め前の席に私に座るように促す。

「その人は立ったままでいい。お茶を淹れてきてくれないか。」
今日は誰も付き人がいない理事長。
「わかりました」
給湯室の場所も使い方もわかっている私が返事をしてお茶を淹れに行こうとすると律樹が私の手を握った。
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