最後の一夜が授けた奇跡
理事長が去った部屋。

「季里」
立ち上がっていた私の肩に手を置いて、律樹はソファに座るように促した。

「大丈夫か?」
「・・・」
緊張の糸が切れてなぜか涙が流れた。

「緊張したな。ごめんごめん。」
なぜか律樹が謝りながら私を抱きしめて、なだめるように背中をさする。

「落ち着け。大丈夫だから。」
安心した涙じゃない。

張り詰めていたものが切れてしまったのもある。
でも、これから律樹にかかってくる試練の大きさと厳しさに、言いようのない感情が押し寄せていた。

「俺を信じろ。大丈夫だから。な?」
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