最後の一夜が授けた奇跡
私のマンションはカギが2重ロックになっている。
律樹が来ても部屋のカギを開けなければ、顔を合わせることもなければこの部屋を見て心配をかけることもない。

律樹はこの部屋のカギを持っているけど、勝手に開けて入っては来ないだろう・・・。

私は部屋の玄関でぐちゃぐちゃな顔のまま、律樹からのプレゼントの万年筆を抱きしめて律樹が来るのを待った。

なるべく心を落ち着けるように努力しながら。

玄関のチャイムが鳴り、私はインターフォンをとった。
「はい」
『季里。開けろ』
「今はダメです。来ていただいたのにすみません。」
律樹は髪を乱して、肩で呼吸をしている。
駐車場に車を停めて走ってきてくれたのだろう。
まだワイシャツを着ていて、一番上のボタンだけを外して、緩めたネクタイもしたままだった。
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