最後の一夜が授けた奇跡
「はじめて、自分の背負うものを投げ出したくなった。」
「律樹・・・」

そう思わせてしまったのは私だ。

「あの夜、全部放りだして季里と一緒に逃げたいと思ったんだ。」

律樹が私の瞳をまっすぐに見る。
手当てしたばかりの私の手をそっと包み込むように両手で触れながら。

「ダメだよ、そんなの。」
辛そうな律樹の分まで私がちゃんとしないとならない。
ぎこちなくても微笑みながらそう言えた自分を私はえらいと自分でほめた。

「季里にそんなこと言わせて、考えさせて・・・」
「・・・律樹」
「でも今俺が全部投げ出しても、俺は季里を守れない。」
「・・・え?」
律樹のせつなさに満ちた表情が少し変わる。
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