最後の一夜が授けた奇跡
私は律樹の手をそっと払い理事長の方を見た。

「大変申し訳ありません。」
深く深く頭を下げる。

私にできることはこれくらいだ。

「今週いっぱいで退職することになっています。本当に申し訳ありません。社長は何も悪くありません。すべて私の責任です。大変申し訳ありません。」
途中で律樹が私の手を再びつかみやめるように言っていた。
でも私はもう一度律樹の手を振り払い頭を下げる。
「今週いっぱいといわず、今すぐやめなさい。給料は支払わせる。顔も見たくない。下がりなさい。」
「やめてください!」
律樹が声を荒げる。

私はもう一度深く頭を下げてから社長室から出ようとする。

「季里。行くな。」
律樹が私の手をつかむ。
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