ブラインドネス・シンドローム
「ここ最近で何か不便と感じたりしたことは?」
「特に何も無いです」
「元々視力が悪いとかそういうのは?」
「ないです、裸眼で左右とも1.0はあります」
「昔、何かを患ったことは?」
「病気はないです」
「ーー仕事、残業多い?」
「そうですね、ここ数ヶ月でちょっと増えてきたかもしれないです」
そっか……と一つだけ呟いた先生は、何か紙に書いているのかサラサラと筆を走らせる音が部屋に響く。
「その疲れた顔だというのに、上司は何も言ってくれないんだ」
「あはは……そうですね。寧ろ仕事増やされたりもしてます」
「それを俗にブラック企業と言うんだよ」
先生の真剣なその声に、私は俯くことしか出来ない。
転職しようと試みたこともあったが、いざやってみようとすると上からの圧が強すぎてそれどころではなかったのだ。
今辞められたら他の職員に迷惑をかけることを知らないのかなどと、口酸っぱく言われてしまえば諦めるしかなかった。
「理由はともあれ、少しの間は休養が必要だ」
「でも私が抜けたら仕事が回らなくなっちゃうんです」
「それをサポートし合いながら運営していくのが会社ってものだ。千鶴さんが全て責任を負うのはおかしい話でしょ。だから気にせず休む、それが大事だ」
「はい……」
でもどうやって生活していけばいいのだろうかと、不安が現れたがそれすらも先生は拭っていく。
「世の中傷病手当というものもあるからね。僕からは会社宛に診断書の提出をしておくから安心して」
「傷病手当……ですか」
「真面目に働いてきた千鶴さんだから、そんなものとは無縁だったと思うけど、細々したことは僕に任せて大丈夫だよ」
流石と言うべきなのだろうか、医師として患者を優しく包むそのオーラが目を閉じているというのにも関わらずそれを感じ取ることができる。