ブラインドネス・シンドローム
「ただ、その人によって完治するまでの期間は違う。週単位か、年単位になるかは全くもって検討はつかない」
「私はどうなんでしょうか……」
検討がつかないと言われているのに、どうしても問いただしたくてその言葉を口にする。
「分からない。難病……つまり不治の病と言われているのは確かな事。でも僕は、その難病を治してきた。僕は絶対に君をサポートするから、そんな不安がらなくても大丈夫」
先生は呆れることもなく私のその問いに答えてくれた。
そして背中を支えてくれるかのような暖かい言葉に、私は我慢していた涙を流す。
「怖かったよね。よく我慢してこれたね」
そっと隣に先生の気配が移ったかと思えば、温もりのあるその手で優しく背中を摩ってくれた。
その温もりがあまりにも温かくて、私は子供のようにその場で泣き続けた。
涙が落ち着いてきて、たわいのない先生との会話の中で笑えるようになってきた私は、現実を受け止め見えることはない目をゆっくりと開けた。
やっぱりぼやける視界は広がったままで、微かに分かる光と影が目に映った。
先生の顔すらもまともに見えることはないけれど、しっかりと先生の方を見て頭を下げた。
「これから宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくね」
ここから非日常が日常に変わっていくのかもしれないなどと、思いながらまずは先生との関係をより良くしていく必要があると私は先生の名前を聞いた。
「僕の名前は戸上 啓司(トガミ ケイジ)。ブラインドネス・シンドロームの専門医。だけどそんな頻繁に患者は来ることもないし、普通の内科医なんだ」
「そうなんですか」
「ま、内科医の仕事もろくにせずに研究に没頭してるんだけどね」
診療所を抱えながら研究に明け暮れる日々というのは、中々にハードな事だと思うがそれを自慢してこないということは真剣に向き合って仕事をしている人の証拠だ。
その事が少し頼もしくて、自然と口角が上がった。
「それで今後の事なんだけど」
「あ、はい」
ニヤけていたことをバレないように返事をして口を結ぶと、戸上先生は何やら部屋の奥の方へと足を運ばせた。
「家に帰って通院するなんてこと前途多難なことだろうし、治療費受け取らない代わりに僕の研究対象になってほしいんだ」
「研究対象、ですか」
「痛いこととか想像しちゃった?大丈夫、治療薬はない病気だし、注射とか点滴とかそういうのはしないよ。ただ日々問診に答えてくれればそれでいいから」
詰まった私の言葉を察してか、戸上先生は具体的な研究方法の内容を話してくれたお陰でほっと胸を撫で下ろした。