ブラインドネス・シンドローム
目が見えない不自由さがあるというのに、先生のお陰で不自由が自由に思えてくる。
こうやって何人もの患者さんを傍で支えてあげたと思うと、先生がどんどんすごい人に思えてきた。
「少しでも感覚を覚えれば一人で出来るようになることもあるから、焦らなくていいからね」
「何から何まで親切にしてもらってありがとうございます」
「いいんだよ。これくらい医療従事者として当然のことだから」
そう言って朝ごはんのお皿達を片付け始める音が聞こえて、手伝いたい気持ちはあるもののできない私に少しだけ嫌気がさした。
ただ今は慣れれば出来ることもある、先生のその言葉を信じて生活するしかない。
先生の足音が近くに感じられたと思えば、立てる?と声を掛けられ優しく掴まれた手を頼りにベッドから立ち上がる。
「目は見えないけどベッドからは、離れて生活していたいと思うから、こっちの椅子に座ってるといいよ」
別室に移動しているという感覚を持ちながら連れて行ってもらえたのはきっとリビングにあるソファーなのだろうか、先生の部屋の構図も少しずつ覚えたら見えない景色でも何かが変わる気がする。
「ここはリビングですか?」
「うん。今は小さい二人用のソファーに腰掛けてもらってるよ」
「先生のお家って大きいですか?」
「1LDKの小さな家だよ。診療所も思い描くような大きな建物じゃないから」
小さいけれどちゃんと掃除されている綺麗な空間であることは、最初に香った金木犀の香りで分かっている。