ブラインドネス・シンドローム



「よし、じゃあ下の診療所で一緒に仕事しようか」


階段を降りて昨日感じたあの金木犀の香りが漂ってきて、落ち着いた感情のまま指示された場所に腰掛けノートパソコンのキーボードに手を置いた。


「今から言う文字を打ち込んでほしいんだ」

「はい」

「電子カルテがここにはないんだけどさ、研究にはパソコンないとやってけないから。じゃあ、行くよ」


そうして先生が言う言葉を打ち並べていく作業が始まった。

先生の声はやっぱり聞いているだけで心地よくて、こんなに穏やかな気持ちでキーボードを叩くことは初めてだった。

ブラインドネス・シンドロームの概要、症状そんな内容をひたすら打ち込むうちに、昨日先生に教えてもらった内容を復習しているような感覚だった。

どれくらい文字を打ち続けたのかは分からないが、先生が終わりと言ったその時点で少し首が疲れていたことに気づく。


「千鶴さんの今日のお仕事はここまで。休憩しよう」


先生が紙の束を机に置いた音と、時計が時間を刻む音だけが響く。

私は一つ伸びをして筋肉が緊張しているのをゆっくりと解していると、先生が私の名前を呼ぶ。


「少し首元触るね」

「あ、はい」


揉みほぐすように私の首筋の筋肉を触る先生の手の感覚ばかりに意識を向けてしまい、どこか緊張してしまう私がいる。





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