ブラインドネス・シンドローム
見えない世界で人に触れられる感覚は安心できるというのに、それが何故か緊張してしまうのは何故なのだろう。
「いつもこんな早くキーボード打って仕事してるの?」
「全然早くないですよ、上司には遅いって言われます」
「僕には大助かりなんだけどなあ」
私なりに精一杯やってても、それは上から見たらただ小刻みに足踏みをしているだけなのだろう。
どれだけ腕を磨いた所で褒められることはまず有り得ない。
「このまま問診始めさせてね」
首元を揉まれながら先生の問診が始まり、触れられる緊張感と先生の優しい声にリラックスするという対立が私の中で始まった。
「ここ最近頑張ったなとか頑張りすぎたなって思うことある?」
「いえ、特にはないですね」
「何か辛いこととか抱えていない?」
「今は先生がいるので大丈夫です」
「そっか」
淡々と質問されたものを回答していると、少しだけ先生の手の動きが鈍る。
「ねえ、千鶴さん」
優しい声の中に芯のある真剣な声色が重なり、そして先生の手の動きが止まる。
「僕の前では素直になっていいんだからね」
その言葉の意味が分からず、でも一つ強く頷いて肯定してみせるしかなかった。