ブラインドネス・シンドローム
でも病気が治ったらこの現実が再び非現実となって、私は仕事に行って無のような状態で毎日を過ごすことになる。
元通りになることを願っているのに、それを戻したくない感情も浮かんでいる。
何が正解なのか、どれが本物なのか今の目を閉じたままの私には答えを出せるわけが無い。
そんなことを考えていると先生のスマートフォンの着信音が大きく鳴り響く。
「はい、もしもし」
少しだけキリッとなった先生の声が普段とは違う印象を持たせた。
医師というものは他の病院と連携を取りながら仕事をしているということを、この前先生から話を聞いた。
もしかしたら他の病院で、同じように私と同じような症状を持つ患者が現れたのだろうか。
手短に電話を済ませた先生は、少し早足で部屋の中をあちこちと移動し何かを手にし始める。
「先生?」
「千鶴さん、ごめんね。少し用事ができたから、今夜一人でお願いできるかな」
「大丈夫です……」
「ありがとう。夜ご飯は作ってから出かけるから」
それだけ行って私を置いて上の部屋へと階段を登る足音を聞きながら、私は頭を垂れた。