ブラインドネス・シンドローム
いつもならなんの迷いもなく歩いて行けるはずの通路だと言うのに、夜の暗闇もあってか方向感覚を失う。
日頃の行いが悪いからこんな目にあってしまうのだろうか、そうだとしたらまだまだ頑張りが足りないのだろうか。
そんな自問自答を繰り返しながら壁を伝ってようやく外に出ることが出来たが、今度は伝う壁がない外で帰るべきはずの方向を見失う。
いつもなら見慣れた景色が視界いっぱいに広がるというのに、目に映るのは霞んだ暗闇が私を包み込む。
その光景が段々と怖くなってきて視線を逸らすけれど、どこを見ても映るのは霞んで見えない世界だけ。
「疲れてるだけ……大丈夫、私なら大丈夫」
確信のない言葉を並べて自分を鼓舞しようとするけれど、暗闇の中に落ちていくように目がどんどん見えなくなっていく。
感覚だけを頼りに私は帰るべき家へと向かうべく足を動かすけれど、本当に合っているのかすらも分からず時折ぶつかる人との衝撃に何度も頭を下げる。
会社から出て右手に見える大きな高層ビルの看板を左、そうして真っ直ぐ歩けば駅に着くというのに、それだけの道のりだというのに怖くなって足が竦む。
このまま本当に目が見えなくなったらどうしようという不安ばかりが募っていき、無理やり動かしていた足がピタリと動きを止めた。
もし仮にここが道路のど真ん中だったら、私は車にはねられてすぐさま病院送りだというのに、安全確保のための手段がすぐに出てこない。
タクシーを呼んで帰ればいいのだろうか、それとも誰か人を頼る?
もう三年も使っているスマホを鞄から取り出したというのに、薄ぼんやりと発光している画面で操作をすることも難しい。
ここは道行く人に会社に連れて行ってもらって、会社で宿泊した方がまだ安全なのだろうかと考えていると急に後ろから肩を掴まれた。
振り返っても見えるのはぼやけた人影が映り込むだけで、どんな人なのかは一切視界からは情報を得ることは出来なかった。
ただ藁にもすがる思いで私は勇気を振り絞ってその人物に向かって声を掛けるしかなかった。