ブラインドネス・シンドローム
ただ私のそのお願いに助けてくれた男性は、全く違う回答を示して来た。
「あなたのそれは、ブラインドネス・シンドロームです」
「……え?」
あまり聞き慣れない横文字に思わず聞き返すけれど、助けてくれた男性はその言葉を繰り返すことはなく言葉を続けた。
「僕、こう見えて一応医師免許を持ってる身なんです。ここからそう遠くない所に診療所持ってるので夜間診療という形で少し診察させて下さい」
「お医者さん、なんですか」
「今のあなたには急速な処置が必要です。信じ難いかもしれませんが、どうか僕を信じて下さい」
着いていけないこの状況に何と言葉を口にしていいか分からずただ呆然としていると、優しい声が再び鼓膜を揺らした。
「大丈夫です、絶対に治しますから」
治る、その言葉で私の不安感が少しだけ軽くなって一つ頷いた。
「お願いします」
私のその返答と共に、そっと上瞼を撫でられ目を閉じるように指示される。
「無理に視力を使うのも疲れるでしょう。僕が歩くのをリードしますから安心して着いてきて下さい」
ぼやけた視界は封じられ、瞼の裏側の私だけの世界が広がった。
ただそれだけなのに、無償にも涙が出そうになるのをきゅっと我慢してゆっくりと取られた右腕に感じる温もりを抱きしめるように歩き出した。