ロスト・ヘヴン
 季節外れの長雨は、止むこともなくもう6日も続いていた。少女は今日もまた、学校へ向かう。
 いつも通り変わらない生活を続けること。それだけがルールだった。
 彼が望む自分には程遠いだろうけど。

 どんよりとした雨空。
 柔らかく降っている筈の雨が、少女には針のように感じられた。
 微細な痛みが降り続く。それは、まるで責められているようだった。

 父を愛する禁忌を犯した自分を、雨の針が刺す。痛い、と泣くことすら少女には出来なかった。



 早朝の路地は、人気がない。住宅街ではあるのだけれど、少女の登校時間は他の人より早かったから、余り人に会うことはなかった。

 水溜りを弾く自分の足音。傘に当たる雨の跳ねる音。
 1人きりなのに、随分と賑やかだった。今日は、切り揃えた髪が濡れることもない。

「え……」

 2つ目の角を曲がる時だった。ここを抜ければ大通りに出る、その一歩手前。

 ごみ置き場のあるそこに、見慣れない――と言うより、ごみ置き場にある筈のないものが落ちていた。

 落ちていたと言う表現すら相応しくないもの。

 人の、足だった。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop