翠玉の監察医 零度の教室
「人間の心臓は通常、左胸のあたりに存在します。しかしアーサーは右に心臓があるんです。心臓が左右逆に存在するのは約一万人に一人の割合とされています」

「すご……」

蘭の説明にアーサーは「いやぁ〜、照れるな!」とおどける。それを見たゼルダが「仕事ももっと頑張ってちょうだいね」と呆れながら言う。部屋は笑いに包まれた。

誰もが笑う中、蘭は一人だけ別世界にいるかのようにテレビを見続ける。その顔に表情はない。

消費税が増税されるのではないかという話、有名なハリウッドスターが日本に撮影に訪れる話、飲酒運転で大事故を起こした人の話など、テレビは次々に新しい事件を映していく。それを蘭は何も感じずに見つめていた。しかし、あるニュースを見た時その目が見開かれる。

『都内にある××私立中学校で男子生徒が自殺したことがわかりました。警察は自殺の原因を調べています』

蘭は紺色のワンピースの胸元に付けられているエメラルドのブローチをギュッと握り締めた。
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