翠玉の監察医 零度の教室
その日の夕方、解剖を終えて報告書を書いている蘭たちのもとに「失礼します」と一人の四十代前半と見られるスーツ姿の男性が姿を見せた。その顔はかなり疲れているように見える。
「どちら様でしょうか?」
碧子が訊ねると、男性は「水野正人(みずのまさと)と言います」と名前を言った後、涙を拭い始める。
「別室でお話を伺いますね」
ゼルダが笑顔で正人に言った後、蘭と圭介を見つめる。蘭は「行きましょう」と圭介に声をかけて立ち上がる。これから二人で正人の話を聞くのだ。
柔らかなソファがある応接室に蘭は正人を案内し、お茶を用意する。
「……ありがとうございます」
正人は暗く消えてしまいそうな声でいい、お茶に口をつけた。深い悲しみに襲われているその姿に圭介は哀れみの目を正人に向ける。しかし、蘭は気にすることなく正人に頭を下げた。
「お初にお目にかかります。世界法医学研究所の監察医、神楽蘭です。必ず死因を究明いたします」