お出かけしよ、ね?
「私は少し怒っています」
ゆっくりと告げた言葉に、うなだれる啓介さんはビクッと身体を震わせた。
利くんだよね、このセリフ。
まだ二回しか使う機会は無かったけども。
一回目は私の看病をするのに、徹夜したとき。
自分がフラフラになってどうするのよ。
二回目は、生焼けの魚を無理に食べていたとき。
いくらなんでも、それは言ってくれないと。
怒った私は相当に恐いみたいで、啓介さんは素直に言いいつけを守って徹夜しなくなった。
約束を破らないのが、彼のいいところ。
そこに私も惹かれたというか――。
また思考が脱線しそうなのを、啓介さんの視線で我に返る。
覚悟を決めたのか、彼はやっと頭を上げて私の目を見ていた。
よろしい。
では尋ねよう。
「ちゃんと理由を教えて。なぜ私が帰郷しちゃいけないの?」
「……から」
「え? もう一回」
「……離れたくないから」
ポンっと顔から音がした気がする。
たぶん、頬は真っ赤だ。
ここでプロポーズの言葉を再現されるとは!
いやいや、だけどおかしいって。
啓介さんは、私と比べたらクールで大人だよ?
ちょっと離れるくらいでゴネたりしないでしょ。
それじゃ仕事へ行くたびに、宥めなきゃいけないじゃん。
“キミと離れたくない!”
“ダメよ、お仕事だもん。私は待ってるから。あっ、そんな、朝から――”
これを毎日?
悪くないなあ。
……ちょっとやってみたいけど、そうじゃない。
「いつもベッタリってことないのに、どうして帰郷だとイヤなの?」
「なんて言うか……取られる気がしてさ」
「まさか私が浮気するとか考えてるの?」
「違う」
浮気なんて絶対しません。
啓介さんもしない。けど、するのかな。したら死にそう。
浮気しないって、あとで十回くらい約束してもらおう。
「じゃあ、なに?」
「上手く説明出来ない……」
「そこを頑張って。言えるまで待ってるから」
「あのさ」
「うん。どうぞ」
「もう帰って来ないんじゃないかって、不安になるんだ」
そんな馬鹿な、と強く強く否定する。
私の戻る場所はここ、啓介さんの隣。
そう誓って結婚した気持ちは、今も全く揺るいでいない。
「啓介さんがやめてくれって言うまで、離れません」
「そんなこと言わない」
「言っても言わなくても離れません」
「ありがとう。ボクも放さない」
「もう一回言って」
少々彼からもご褒美をもらいつつ、言葉を尽くして自分の思いを伝える。
懸命さが通じたんだろう、彼も最後には納得してくれた。
「たかが墓参りに、考え過ぎだったかな」
「そうそう。こんな心配性だなんて、初めて知った」
「キミのことになると、いつも心配だらけさ」
わずかに苦く、でも穏やかな笑顔で彼は私を見る。
この人なら、と結婚を決めた優しい顔だ。
普段は私が甘える役なのに、この時は逆になった。
座る彼へ近づき、その頭を抱き寄せる。
たまにはこういうのもいい、そう感じた夕方だった。
ゆっくりと告げた言葉に、うなだれる啓介さんはビクッと身体を震わせた。
利くんだよね、このセリフ。
まだ二回しか使う機会は無かったけども。
一回目は私の看病をするのに、徹夜したとき。
自分がフラフラになってどうするのよ。
二回目は、生焼けの魚を無理に食べていたとき。
いくらなんでも、それは言ってくれないと。
怒った私は相当に恐いみたいで、啓介さんは素直に言いいつけを守って徹夜しなくなった。
約束を破らないのが、彼のいいところ。
そこに私も惹かれたというか――。
また思考が脱線しそうなのを、啓介さんの視線で我に返る。
覚悟を決めたのか、彼はやっと頭を上げて私の目を見ていた。
よろしい。
では尋ねよう。
「ちゃんと理由を教えて。なぜ私が帰郷しちゃいけないの?」
「……から」
「え? もう一回」
「……離れたくないから」
ポンっと顔から音がした気がする。
たぶん、頬は真っ赤だ。
ここでプロポーズの言葉を再現されるとは!
いやいや、だけどおかしいって。
啓介さんは、私と比べたらクールで大人だよ?
ちょっと離れるくらいでゴネたりしないでしょ。
それじゃ仕事へ行くたびに、宥めなきゃいけないじゃん。
“キミと離れたくない!”
“ダメよ、お仕事だもん。私は待ってるから。あっ、そんな、朝から――”
これを毎日?
悪くないなあ。
……ちょっとやってみたいけど、そうじゃない。
「いつもベッタリってことないのに、どうして帰郷だとイヤなの?」
「なんて言うか……取られる気がしてさ」
「まさか私が浮気するとか考えてるの?」
「違う」
浮気なんて絶対しません。
啓介さんもしない。けど、するのかな。したら死にそう。
浮気しないって、あとで十回くらい約束してもらおう。
「じゃあ、なに?」
「上手く説明出来ない……」
「そこを頑張って。言えるまで待ってるから」
「あのさ」
「うん。どうぞ」
「もう帰って来ないんじゃないかって、不安になるんだ」
そんな馬鹿な、と強く強く否定する。
私の戻る場所はここ、啓介さんの隣。
そう誓って結婚した気持ちは、今も全く揺るいでいない。
「啓介さんがやめてくれって言うまで、離れません」
「そんなこと言わない」
「言っても言わなくても離れません」
「ありがとう。ボクも放さない」
「もう一回言って」
少々彼からもご褒美をもらいつつ、言葉を尽くして自分の思いを伝える。
懸命さが通じたんだろう、彼も最後には納得してくれた。
「たかが墓参りに、考え過ぎだったかな」
「そうそう。こんな心配性だなんて、初めて知った」
「キミのことになると、いつも心配だらけさ」
わずかに苦く、でも穏やかな笑顔で彼は私を見る。
この人なら、と結婚を決めた優しい顔だ。
普段は私が甘える役なのに、この時は逆になった。
座る彼へ近づき、その頭を抱き寄せる。
たまにはこういうのもいい、そう感じた夕方だった。