お出かけしよ、ね?



 墓参りを決めてから三日後、二時間のドライブを経て故郷へ帰る。
 激しく蛇行する山道の末、目的の登り口の脇で車を停めた。

 山頂へ向かう脇道は、車が通れるような幅は無い。
 ここからは徒歩じゃないとね。

 頂上近くには古い(やしろ)があり、遥々と来て参詣する者たちによって、道は一応踏み固められている。

「こんな辺鄙(へんぴ)な場所へも、結構お参りにくるんだな」
「ちょっと早く着き過ぎちゃったね」

 午後三時過ぎ、ちらほらと参道を行き交う人が見える。
 夕方が近くなり、下りてくる人が多い。

 ここは外灯も整備されておらず、日が落ちてしまうと危なっかしい。
 もうすぐ参詣客は消え、虫の音が大きく響く時間となる。

 鬱蒼と樹々が茂る山の中、私たちはシートに身を沈めて時を待った。
 太陽は葉に隠れて窺えなくても、時間の経過は明るさと気配で分かる。

 やがて山陰に日は沈み、夕靄(ゆうもや)が辺りに漂い出した。
 黄昏(たそがれ)、闇が混じる薄明かりの時刻。

 運転席の彼へ頷き、私は車外へ出る。
 二人で登り口の前まで赴き、しばしの別れを惜しんだ。

「ちゃんと帰って来てくれよ」
「分かってる。また明日ね」

 重なった唇が離れると同時に、私の身体を毛が覆う。
 ぴょこんと立った二つの耳に、ふさふさの尻尾。

 刻限だ。
 混じった闇が光に勝る大禍時(おおまがどき)――彼岸のこの時、世界を隔てる壁が溶ける。
 道は現世(うつせ)から逸れて、幽世(かくりよ)へと通じた。

 こーんと一鳴きした私へ、啓介さんは右手を挙げて応える。
 さあ、急がなくっちゃね。

 今では懐かしくなった幽世へと、一歩踏み出す。
 久方ぶりの故郷を目指し、私は全力で霧の中を駆け上がって行った。
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