お出かけしよ、ね?
◇
墓参りを決めてから三日後、二時間のドライブを経て故郷へ帰る。
激しく蛇行する山道の末、目的の登り口の脇で車を停めた。
山頂へ向かう脇道は、車が通れるような幅は無い。
ここからは徒歩じゃないとね。
頂上近くには古い社があり、遥々と来て参詣する者たちによって、道は一応踏み固められている。
「こんな辺鄙な場所へも、結構お参りにくるんだな」
「ちょっと早く着き過ぎちゃったね」
午後三時過ぎ、ちらほらと参道を行き交う人が見える。
夕方が近くなり、下りてくる人が多い。
ここは外灯も整備されておらず、日が落ちてしまうと危なっかしい。
もうすぐ参詣客は消え、虫の音が大きく響く時間となる。
鬱蒼と樹々が茂る山の中、私たちはシートに身を沈めて時を待った。
太陽は葉に隠れて窺えなくても、時間の経過は明るさと気配で分かる。
やがて山陰に日は沈み、夕靄が辺りに漂い出した。
黄昏、闇が混じる薄明かりの時刻。
運転席の彼へ頷き、私は車外へ出る。
二人で登り口の前まで赴き、しばしの別れを惜しんだ。
「ちゃんと帰って来てくれよ」
「分かってる。また明日ね」
重なった唇が離れると同時に、私の身体を毛が覆う。
ぴょこんと立った二つの耳に、ふさふさの尻尾。
刻限だ。
混じった闇が光に勝る大禍時――彼岸のこの時、世界を隔てる壁が溶ける。
道は現世から逸れて、幽世へと通じた。
こーんと一鳴きした私へ、啓介さんは右手を挙げて応える。
さあ、急がなくっちゃね。
今では懐かしくなった幽世へと、一歩踏み出す。
久方ぶりの故郷を目指し、私は全力で霧の中を駆け上がって行った。
墓参りを決めてから三日後、二時間のドライブを経て故郷へ帰る。
激しく蛇行する山道の末、目的の登り口の脇で車を停めた。
山頂へ向かう脇道は、車が通れるような幅は無い。
ここからは徒歩じゃないとね。
頂上近くには古い社があり、遥々と来て参詣する者たちによって、道は一応踏み固められている。
「こんな辺鄙な場所へも、結構お参りにくるんだな」
「ちょっと早く着き過ぎちゃったね」
午後三時過ぎ、ちらほらと参道を行き交う人が見える。
夕方が近くなり、下りてくる人が多い。
ここは外灯も整備されておらず、日が落ちてしまうと危なっかしい。
もうすぐ参詣客は消え、虫の音が大きく響く時間となる。
鬱蒼と樹々が茂る山の中、私たちはシートに身を沈めて時を待った。
太陽は葉に隠れて窺えなくても、時間の経過は明るさと気配で分かる。
やがて山陰に日は沈み、夕靄が辺りに漂い出した。
黄昏、闇が混じる薄明かりの時刻。
運転席の彼へ頷き、私は車外へ出る。
二人で登り口の前まで赴き、しばしの別れを惜しんだ。
「ちゃんと帰って来てくれよ」
「分かってる。また明日ね」
重なった唇が離れると同時に、私の身体を毛が覆う。
ぴょこんと立った二つの耳に、ふさふさの尻尾。
刻限だ。
混じった闇が光に勝る大禍時――彼岸のこの時、世界を隔てる壁が溶ける。
道は現世から逸れて、幽世へと通じた。
こーんと一鳴きした私へ、啓介さんは右手を挙げて応える。
さあ、急がなくっちゃね。
今では懐かしくなった幽世へと、一歩踏み出す。
久方ぶりの故郷を目指し、私は全力で霧の中を駆け上がって行った。