青春ゲシュタルト崩壊
朝比奈くんの言う通り、地面に小石が散らばっていて不安定に自転車が揺れる。
落ちないように肩を掴む手に力を入れていると、金髪の間につむじを発見した。
ガタガタとした道を抜けた直後、右手の人差し指で、朝比奈くんのつむじを軽く押してみる。
「えい」
好奇心で押してしまったつむじは、朝比奈くんを動揺させる効果があったようだ。
「っ、お前、なにすんだよ!?」
「ご、ごめん。つい」
後ろを見ることなく、片手で私の手を払うと、深いため息が聞こえてくる。少しふざけすぎたのかもしれない。
「お前さ、昔っからつむじ押すよな」
「昔?」
「覚えてねぇの? 小学生の頃、ボール蹴りで隠れてたとき、俺のつむじ押してただろ」
小学校、ボール蹴り……そういえば四年生くらいのときに缶蹴りの代わりにボールを使うボール蹴りが流行っていた。
「学校の昔鶏の小屋があった裏側でやっただろ」
「あ、昼休みに時々クラスの数人でボール蹴りしてたね!」
女子数人と昼休みに外で遊んでいたら、男子たちがやってきてみんなでボール蹴りをすることになった。
そのときかなり盛り上がったため、それから集まれる人たちは、昼休みにボール蹴りをするというのが一時期のブームだったのだ。
そういえば、普段は校庭でサッカーをして遊んでいた朝比奈くんが、クラスの女子たちに誘われて、時々ボール蹴りに参加することがあった。
あるとき、偶然私と朝比奈くんが隠れる場所が一緒になってしまったことがある。同じ場所に隠れるのは、見つかりやすいため避けたかったけれど、隠れる時間がなくなってしまい、ふたりでツツジの葉が生い茂っているところに身を屈めて隠れていたんだ。
そしたらちょうど朝比奈くんのつむじが見えて、好奇心で押してしまった。
先ほどの断片的な記憶は、そのときのものだったみたいだ。
「そうだ、それで朝比奈くんが驚いて声上げて、見つかっちゃったんだっけ」
「俺のせいみたいに言うな」
「だってあんなに驚かれると思わなくて」
「こっちは間宮がそんなことしてくる方が驚いたっつーの。そういう悪戯とかするように思わなかったし」
小学生の頃は、朝比奈くんと今みたいに会話ができるような人間じゃなかった。
なにをするにも自信がなくて、話すことが苦手で、手を引っ張ってくれる周りの子のおかげでクラスに溶け込めていた。