青春ゲシュタルト崩壊
先生たちがまばらにいる放課後の職員室で、私は手に汗を握っていた。
緊張と不安に押しつぶされそうになりながらも、背筋と足を必死に伸ばして立つ。
いったいなんて返ってくるのだろう。
「あのな、間宮」
キャスター付きの鼠色の椅子を半回転させて、桑野先生がこちらへ体を向けてきた。
鍛えられた腕を組み、少々威圧感のあるくっきりとした二重の目で私を見上げる。
「お前には期待してるんだ」
返ってきた言葉に私は酷く落胆した。
熱血で面倒なところもあるけれど、人の話には親身になってくれる先生だと思っていた。けれど、私の話を聞いてくれても気持ちまでは理解してくれなかったようだ。
「でも先生」
「三年生はただでさえ大事な時期なんだ」
桑野先生は短髪を掻き、視線を床に落とした。
そして再び視線を上げると、まるで駄々をこねる子どもを仕方なく宥めるかのように困った表情を浮かべられてしまう。
「いいか、間宮。三年生の背中を見て、いずれお前が引っ張っていくんだぞ。今のお前は、甘えているようにしか見えない」
漫画から抜き出したようなお決まりの言葉に、ため息が漏れそうになりながらも、私は黙って俯くことしかできなかった。
「今練習を抜けたらチームが乱れる。悩みがあるならチームのみんなに相談してみろ」
「……はい」
顧問だというのに、部の成績や強さばかりを気にして、一人ひとりのケアなんて後回しだ。桑野先生になんて話すべきではなかったと気分が沈みながら職員室を出ようとしたときだった。
「最近お前らしくないぞ」
なにかが心の中で、ぱきりと音を立てて割れた気がする。