青春ゲシュタルト崩壊
その日の夜、再び朝比奈くんにメッセージを送った。
『朝比奈くんへ。好きなもの、マスカット味の飴』
『だから俺はメモ帳じゃねぇ』
速攻返信がきたため、気持ちがはやる。寝転がっていた体を起こして、指先で液晶画面をタップした。
『あと、朝比奈くんは面倒見がいいことを知りました』
『意味がわかんねーんですが』
『ありがとう』
『はいはい』
素っ気ない返答にショックは受けず、むしろ彼らしくて笑ってしまう。本当に冷たい人なら、返事なんてしてくれずに既読無視するはずだ。それなのに朝比奈くんは律儀に返事をくれる。
『で、調子はどうなんだよ』
『今日はあまり精神的に不安定にはならなかったかも』
『やっぱ部活が原因なんじゃねぇの』
『そうだと思う』
青年期失顔症になった大きな原因は部活にあるはずだ。人間関係や自分の立ち位置。だけど結局は、相談できる相手がいなかったことも原因のひとつだ。
『部活、辞めれば』
『今はまだ考えてる』
『嫌なら辞めればいいじゃん。無理して続けてなんの意味があるんだよ』
『でも辞めたらいろんな人に迷惑もかかる』
『休部してる時点で同じだろ』
気持ちとしては部活を辞めてしまいたい。けれどお母さんがそのことを知ったらどう思うのだろう。それに部活を辞めてしまったら、バスケ部はどうなるのだろうか。二年生と、先輩たちや桑野先生との間に立っていて、いろんな雑務をしてきた。それを誰が代わりにするのか思い浮かばない。
『間宮さ、周りの目気にしすぎ』
『そうかな』
『人は思ってるよりも、他人のこと見てねぇよ。みんな自分のことで手一杯だし』
朝比奈くんの言う通りかもしれない。みんな私のことをそこまで気にしていないから、忘れ去られたかのように今日はバスケ部のみんなが教室へ遊びにこなかったのだろうか。いなくなってもすぐに慣れて、いつかそこ場に私がいた過去さえも消えてしまう。
また仄暗い感情が心を蝕む。飲まれてはいけない。そう思うのに、考えだすとなかなか止まれない。
通知音が聞こえて、携帯電話に視線を落とすと、朝比奈くんの言葉が画面に浮かび上がる。
『中条と話してみたら』
意外な言葉に、私はなにも返せなかった。同じ青年期失顔症とはいえ、自分とは違ったタイプの子。それでも中条さんと話してみたら、新たな発見があるだろうか。
話をするのなら、私も中条さんに打ち明けるべきか悩む。
あまり多くの人に知られたくないけれど、中条さんの話も聞いてみたい。
そんなことを考えていると、だんだんとまぶたが重くなり、私はいつのまにか眠りについてしまった。