青春ゲシュタルト崩壊



「それでも間宮先輩みたいに、私のこと知りたいって思ってもらえるのは嬉しいです」
「でも……知り合ったばかりで無神経って思わない?」
「知りたいって思ってもらえることの方が、少ないので私は嬉しかったですよ」

 そういえば、私も友達に私の考えを知りたいと言われたことはない。いつだって聞き役だった。
 朝比奈くんが言っていた通り、人は自分のことで手一杯で、他人のことをそこまで気にしていないのだろう。そんなことを実感してしまい、虚しさがこみ上げてきて乾いた笑みを漏らす。


「だけど、私も結局自分のことばっかりだよ」
「えー、そんなのみんな一緒ですって。自分が一番かわいいですもん。だけど、それでも周りに関心を持って、考えることができるかが大事なんですよ」

 ニッと歯を見せて笑った中条さんを見て、感情が揺れる感覚がする。
 それは悪い方向ではなく、いい方向へと高揚しているように思えた。


「私、中条さんの考え方、好き」

 ぎこちなくて、たどたどしい物言いになってしまったけれど、それでも自分を持っている中条さんのことが好きだと感じた。話せば話すほど、自分を見失っているとは思えない。けれど、当人はきょとんとして固まってしまっている。


「えーっと、なにか変なこと言っちゃった?」
「……いつもこういうこと言うと、私らしくないとか、ひかれたりするので……驚きました」

 中条さんらしくない。私は普段の中条さんをそこまで知らないからかもしれない。
 昨日出会ったばかりで、明るくて無邪気な子に見えるけれど自分を探すために、寝る間を惜しんで本を読みあさっている。知っているのはそれくらいで、日常生活を共に過ごしたことがあるわけでもない。

 だけど、〝らしくない〟と誰かに自分を決めつけられる言葉は心にずしりと重みとしてのしかかってくる。私も桑野先生に言われたとき、そうだった。



「寝不足で倒れたときも、深刻に受け止められるっていうよりも、漫画とか小説読んでるからでしょって笑われちゃいました」

 中条さん自身も心配をされたいわけではないだろうけれど、勝手にイメージという枠にはめられるのは苦しいことだと思う。きっと誰も彼女と〝青年期失顔症〟を結びつかないのだろう。


「人って色々な面があって当たり前なのにね」
「ですよねー。アニメや漫画みたいに、〝キャラ付け〟されて、ちょっとでもそこからブレると、らしくないって言われちゃって。……私は笑っていないと変だって」

 私も押しつけられた雑用に難色を示すと、いつもなら引き受けるのになにかあったの?と言われたことがあった。我慢していただけで、喜んで引き受けているわけではない。けれど、周りにはそうは見えなかったみたいだ。



「人って矛盾してる生き物ですよね」
「矛盾?」
「んー、たとえば私は元気に見られたかったんです。だけど、悩みがなくていつも笑っているって言われるのは嫌だって思うときがあるんですよ。自分勝手ですけど」

 矛盾している生き物。中条さんの言う通り、私もそうだ。
 頼られるのは好きで、誇らしく思っていたこともあった。けれど、頼られて都合よく扱われると、嫌になるときがある。自分から望んでその立ち位置にいたはずだというのに、気づけば自分の首を締めていた。



「元気に見られたいはずなのに嫌になって、自分を見失って……私、なにやってるんですかね」

 中条さんと話していると、だんだんと自分の感情も見えてきた。私も、彼女も己の中の矛盾が自分を苦しめているひとつなのだろう。


「昔から得意なことってないんですよね。特別なにかができるわけでもなくて、趣味もない。だからなにかひとつでいいから個性みたいなものがほしかったんです」
「それが発症利理由?」
「うーん、どうでしょう。多分理由は、いろいろなことが重なったということなんだと思います」





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