青春ゲシュタルト崩壊
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関わる気なんてなかった。昔からの知り合いといっても、まともに話したことなんてほとんどない。多分相手も俺のことなんて、認識していないだろう。
あの日の放課後までは、そう思っていた。
放課後に教室に置きっぱなしだった鞄を取りに行こうとしたときだった。なにかが破れるような音が響き、見にいくと女子が立ち尽くしているのが見えた。
床にはなにかが散らばっていて、太陽光に反射している。あれは多分、鏡だろうか。
背を向けられているため、顔はよく見えない。けれどあの髪型や背丈、そして教室ですれ違うときに見たことがある鞄につけられた白いクマのキーホルダー。
「間宮?」
この名前を口にしたのは、いつぶりだっただろう。
——間宮朝葉。
小学校の頃から一緒で、高校では同じクラスになったものの全く言葉を交わさない。俺とはいる場所が違っていて、周りから好かれている女子。
振り返った間宮は、今にも泣き出しそうな表情だった。
「ねえ、私の顔……見える?」
久しぶりに交わした言葉は、予想外でかなり戸惑った。そして自分の従兄のことが頭を過り、彼女の発言や状況と結びつく。
「お前もしかして……〝青年期失顔症〟なのか?」
掴んだ階段の手すりが、やけに冷たく感じて心臓が落ち着かないくらい跳ね上がる。まさか間宮に限ってと、そんなことを思ってしまった。けど、必ずしもならないと言う人はいないと従姉が言っていたことを思い出す。
人に囲まれている彼女だからこそ、苦しさを飲み込んで耐えてきたのかもしれない。
それから巻き込まれたのか、俺自身が首を突っ込んだのか、よくわからないまま俺は間宮や一年の中条と関わるようになっていった。間宮は俺に小学生の頃に憧れていたと言っていた。それを言うなら、俺の方がずっと間宮に憧れていた。
小学生の頃、偶然ボール蹴りで同じ場所に隠れて、珍しくいたずらをされた。俺のつむじを押して、無邪気に笑う間宮が忘れられなかった。
だけど自分とはいる場所が違うのだと、中学辺りから自覚した。
部活を辞めて、派手な人たちとつるむようになって、周りからは冷ややかな視線を向けられるようになった。それでも俺は、後悔をしていなかったし、派手な先輩たちのことだって好きで一緒にいた。むしろ見た目だけで決めつけてくるやつらの方がうんざりしていた。
でも、ひとつだけ。虚しさを覚えたとしたら、変わっていく間宮の姿だった。バスケ部に入ってから、明るくなった間宮はいつのまにか友達に囲まれるようになり、男子からも人気が出ていた。
自分には手の届かない存在。もう二度と話すこともないだろうと思っていた。だけど、多分俺は間宮にずっと憧れていた。
*
間宮と中条の青年期失顔症の問題がひとまず片付き、最後は俺のやるべきことが残っていた。できるなら関わりたくはなかったけど、ここまできた以上は仕方ない。
旧校舎の屋上で、ペットボトルを二本持って〝あの人〟が来るのを待つ。扉が開き、顔を覗かせた相手に挨拶をする。
「どうも」