ブエノスアイレスに咲く花
僕は白いペンキの塗られた小さなベンチに座り、
庭の手入れをする女性を見ていた。
女性はこちらを振り返らずに、
「彼女の願い、分かってるんでしょう」と言った。
「分かってしまう僕は、
どうしたらいいんでしょう」
僕が言うと女性は振り返って、
やさしく笑い、僕に近づいて僕の両手を取った。
「そろそろだわ」
僕は黙って彼女の大きな瞳を見つめた。
彼女は僕の手を離すとそばにある鉢植えを
一つ拾い上げて僕に渡した。
「あなたの花もじきに咲くでしょう、
それから、彼の願いが届いたから、もう戻って」
彼女はそう言うと家の中へ入って行った。
僕は渡されたサボテンに咲く、
小さな赤い花をぼんやりと見つめていた。
鉢植えを横に置き、目を閉じた僕に
酔いと、旅の疲れがどっと押し寄せ、
僕はその場で、眠りに落ちた。