ブエノスアイレスに咲く花
奇跡という名の借り
僕が退院して普通に生活を送るようになった頃、
街はすっかり浮かれていた。
入院中、受けられなかった授業の
再履申し込みをしに大学へ行くと、
正門の突き当たりにある木には
イルミネーションが施されていた。
毎年恒例の点灯式に、僕は参加できなかった。
その代わりに奈津美が病室で、
話を聞かせてくれた。
在学生はもちろん、
付属の高校生や部外者カップルが
多く訪れていてとても退屈だったと言う。
「聖書を開いたこともないくせに来て、
賛美歌も歌わずにキスしてるんだよ?」
「人は平和の前では信仰心を忘れるんだよ」
僕が言うと奈津美は編み物の手を止めて言った。
「そんなのって、気まぐれに料理して、
一切洗い物をしない男みたい!」
僕は笑って、
「なんだか相沢みたいな言い方だね、
けどその例えはまさに相沢本人のことだよ」
と言った、彼女は唇を尖らせて作業に戻った。
そして僕が「何を編んでるの?」
と聞くと奈津美は「ひみつ」と言って笑った。