ブエノスアイレスに咲く花
「奈津美は花が咲いたって電話してきたんだよ、
だからお祝いに飲もうって言ってきた」
相沢は目をそらすと、
左利きかと錯覚するような違和感のある持ち方で箸を持って、
パスタに手を付けることなく、
ゴーヤチャンプルーを皿に取りながら言った。
「うん」
僕はそう答えてから、
ビールを飲んで、やけに乾く口の中を潤した。
「おまえが電話に出ないから二人でってなって、
二股男を取り返す願いでもしたらっつったら、
おまえとおんなじこと言って、
それから、俺に好きな人はいないのかって」
相沢はそう言うとゴーヤだけを
つまんで口に入れ「苦いな」と言った。
「その答えを、我慢したのか」
僕はそう言ってゴーヤチャンプルーを皿に取った。
そしてそれのゴーヤをよけて口に入れた。
だけどその苦味は卵や水分に十分溶け出していて、
ゴーヤだけを食べた相沢が、
どれだけ苦味を感じたのかと思うと箸が止まった。
「家に行ったけど、花を見て帰った」
相沢の言葉を信じないはずがなかった。
そして僕はあの夜のことを聞いた自分を恥じて、
相沢の後を追うように、ビールを飲み干した。