ブエノスアイレスに咲く花
僕はひとりになったベンチでメンソールに火をつけ、
去年のことを思い出していた。
3人でいくつか行った美術展で僕と相沢は、
いつも河野が出てくるのを待っていた。
そのうちシャガール展だけは、別だった。
僕がシャガールと言って思いつくものを挙げると
河野は『それは【私と村】だな、油彩画だよ』と言って、
『それよりシャガールは【リトグラフ】だ』と教えてくれた。
そしてバラバラに見ていた僕たちが
落ち合った場所に飾られた絵は、
【軍神アレースと美の女神アフロディーテ】
という版画だった。
相沢は『なんかいいな、これ』と言って
その絵の正面に立ち、うんうんと頷いていた。
そして河野が僕たちに言った。
『アフロディーテはモテるからな、
どんなに振り回されても、みんなハマって許すんだよ』
そして僕が2人に、
僕たちは女の趣味が似ているか聞くと、
相沢は『これが実在したらな』
と言ってその絵を指差していた。