ブエノスアイレスに咲く花

僕が時間割を確認して、
情報端末からプリントアウトしていると、

「真似するなよ、花粉王子~」

と後ろから相沢が声をかけてきた。

僕は時間割を切り取ってログアウトし、

「王子なんて」

と言いかけたとき、くしゃみが出た。

「うっわ、おまえ、あれ持ってねーの?
 大富豪だか石油王みたいな名前のティッシュ」

僕は一瞬意味が分からなかったけれど、
すぐにまた相沢お得意の言い回しに気付いた。

「僕は真似なんかしてないよ」

ポケットから【普通の】ティッシュを
取り出して言った。

「ぼくはまねなんかしてないよ」

相沢はそう言って校舎の外に向かった。

彼の悪ふざけには【無視】が一番の盾
ということに僕は高校に入った頃気付いていた。

気分によっては反応するけれど、
この耳鼻咽喉患いの中では立ち向かう気力がない。
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