ブエノスアイレスに咲く花

「あ、おまえタバコ持ってる?」

2メートル前方を歩く相沢が振り返って言った。

「いや、アレルギー症状を悪化させるから、
 この時期は控えてるよ」

相沢は思い出したように、
「そっか」と言って前を向きなおすと、

「花粉ていつまで飛ぶもんなの」と言った。

「ゴールデンウィークくらいかな」

「じゃあ人生60年として、10年間は花粉患いか」

「ずいぶん短命なんだね、僕は」

そう言った僕に相沢が何も答えないまま、
僕たちが学食の前に着くと、彼は振り返って、

「本当なら、享年21歳だろ。
 あ、俺タバコ買ってくるから、先行ってて」

そう言って相沢は学食を通り過ぎて
自販機へ向かって行った。

僕は「なるほど」と一人つぶやいて中に入ると、
明かに浮かれた新入生と、
それに便乗した在校生たちでごった返していた。
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