ブエノスアイレスに咲く花
「何してるの?」
まるで台本でも読むかのように、
遠慮深く彼女は尋ねて、
僕が答えようとすると、
「そうじゃなくて」
と相沢の足元を指差して彼女は続けた。
「え、ぼく?」
相沢がわざとらしくそう答えると、
彼女は頷いて1歩近づいてきた。
「地球と戦ってるんだけど、ダメかな」
相沢は吸っていたタバコをベンチの裏で消して、
似合わない携帯灰皿にそれを入れながら答える。
「意味わかんない!」
彼女は思わず笑って、
もう片方のイヤホンも外した。
「おまえさ、こっから見て地球の裏側って
どこだか知ってる?」
404教室の彼女は黙って相沢を見ている。
僕は完全に蚊帳の外だ。
「アルゼンチンだよ、アルゼンチン、
因みに首都はブエノスアイレスね。」
相沢が彼女を覗き込むようにして言った。
「否、正しくは大西洋沖だね、
大陸はないよ。」
僕は軽い嫉妬を覚えて会話に参加した。
「おまえって本当、屁理屈人間だな、
神経質って言うかなんていうか、
糊代のない展開図みたいなやつだ。」